桐野夏生「魂萌え!」 | こだわりの館blog版

桐野夏生「魂萌え!」

魂萌え !/桐野 夏生
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ベストセラーの映画化って、いつも悩みます。
小説を先に読むか、映画を先に見てしまうか。

長編小説なんかは、どう考えても
2時間の映画の枠には収まり切れませんから、
小説を先に読んでしまうと、どうしても映画は物足りなくなってしまう。

なんであのエピソードをカットしてしまうんだよ!とか
なんであの人がこの役者なんだよ!とか

見終わったら、もう不満ばっかり。
…そんなら最初っから小説なんか読まなければいいのに!

まぁ小説の内容をほぼ完璧に描き切ったのって最近では
「理由」(原作:宮部みゆき、監督:大林宣彦) ぐらいかなぁ。
だからなるべく私は先:映画→後:小説の流れにしてるのですが、
この作品ばかりは、わかってはいるけど
自分の決めている方程式を崩してしまいました。


桐野夏生の「魂萌え!」
桐野夏生は前に「OUT」を読んでまして(これも映画化されました)。
ごく普通の日常から主婦たちがあれよあれよというまに
トラブルの渦中に巻き込まれて行く、
その不条理さや怖さが非常におもしろかったのですね。
だからこの小説が阪本順治監督、風吹ジュン主演
映画化される事は知っていましたし、
もう間もなく公開っていうのも重々承知してたのですが、
映画が公開される前に小説での桐野ワールドを再び体験してみたい、と
今回は中高年を題材に、老体がドロドロした桐野ワールドの世界に巻き込まれるのかと、
ちょっとグロテスクな内容まで想像してしまっていたのですが、
結果は、さにあらず。


主人公の59歳・敏子さんは
定年退職後の夫は急死するは、その夫に10年以上付き合っていた愛人はいるわ、で
確かに【ドロドロの渦中】に巻き込まれます。
しかし決して小説はそれをグロテスクには描いていない。
あくまでも今まで夫に頼り切った専業主婦の敏子さんが、
夫の急死などのトラブルの数々を経て、
いかに新しい【自我】【生きがい】を見付けていくか
この点を様々な同年代の人たちを登場させ、絡ませながら
じっくりと読ませます。


そして何より作品の根底にあるのは
敏子さんを通じて中高年の女性たちへ送る
作者からの熱い【エール】のようなもの
爽やかで大胆で、しかも軽やかな敏子さんの決断の数々。
それがちっとも【ワガママ】にうつらないのは
作者が心から敏子さんに「がんばれ!」のエールを行間から送ってるからに他なりません。


ここまで楽しんで小説を読んでしまうと
映画を見るのが本当怖くなってしまいましたが、
…小説「魂萌え!」おすすめです。


読後、実家の母親にこの小説を読んだかどうか、ちょっと聞いてみたくなりましたよ。


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