「魂萌え!」 | こだわりの館blog版

「魂萌え!」

魂萌え!

小説と映画の微妙な関係…


1/27 Tジョイ大泉 にて


監督・脚本:阪本順治
原作:桐野夏生
出演:風吹ジュン、田中哲司、常盤貴子、加藤治子、豊川悦司、寺尾聰、藤田弓子、
    由紀さおり、今陽子、左右田一平、なぎら健壱、林隆三、三田佳子、他


 定年を迎えた夫と平穏に暮らしていた敏子(風吹ジュン)の日常は、
 夫が心臓マヒで急死したことで一変する。
 葬儀の後、夫の携帯電話にかかってきた見知らぬ女性からの電話で明らかになる
 10年以上にわたる夫の浮気。
 8年ぶりに現れ強引に遺産相続と同居を迫る長男…。
 生まれて初めて深い喪失感を味わう敏子を、次々に人生の荒波が襲う…。


先日、小説「魂萌え!」 を一気に読み終わった私は、
もう心は阪本順治監督、映画「魂萌え!」へ。

小説でのあのシーンはどう映像化されているのだろう…
あの登場人物は映画では誰が演じているのだろう…
考え始めたらもういても経ってもいられず、公開初日にいそいそと見に行ったのであります。
本当、初日に見に行くなんて「カーズ」以来。
しかも「カーズ」は仕事の関係だったから、仕事以外の純粋な目的で初日に見に行ったのは珍しい事。


主役の敏子役の風吹じゅんは、想像したのよりも若いかなぁとは思いましたが
専業主婦が突然世間の荒波にもまれるという
この物語の主人公としては【線の細さ】が実に適役!
対する昭子役の三田佳子がいい味でした。
もっと地味な女優さんでもとも思いましたが(市原悦子あたり)、
あのちょっと見せる意地悪な雰囲気がぴったり(笑)。
あとあの東北弁が役柄のいいアクセントでしたね。


阪本順治監督は後半の変わっていく敏子さんを
あまり人々と絡ませずに、彼女が一人電車に乗っているシーンや
彼女が一人街中を歩いているシーンなどを、長回しでズーッと撮って行く事で
風吹じゅんの表情ひとつで表現していたのが
映画にしかできない【オリジナル】な部分で新鮮でした。


特に小説では敏子さんは
状況の変化に常に【心の中】で叫び続けていたようなものですから
到底ここらへんは映像化できないわけで
それならいっそのこと表情ひとつで表現しちゃえ!
という大胆な省略法といいますか
このへんなんかは、さすが「顔」で実績済みな、
阪本順治監督一流の【女性の演出法】でありましたね。


と、この映画をこのままベタ誉めで終わりたいのですが、
やはり小説を前に読んでしまった身にとりましては
どうしても残念でならない部分が多々ありまして…

確かに映画のオリジナルな部分は素晴らしい。
しかしこのオリジナルな部分が、【小説の魅力的な部分】をもカットしてしまったという結果は
なんとも皮肉なところであります。


あ、言っときますとこれからは、ストーリーにどんどん踏み込んじゃいますので
これから見ようという方は読まないほうがいいですよ。


小説、特に【下巻】の魅力は、敏子さんが変わっていくところと
敏子さんが色々な人たちと接していき、
その人たちを通じて同じ年代の人間たちが抱えている様々な問題
浮き彫りになってくるとこなんですよね。


例えば…愛人・昭子さんのこと。
小説ではラスト近く昭子さん(映画では三田佳子)と敏子さんは
「和解のような別れ」をするのですが、これがいい場面だったのに
映画ではなぜかバッサリカットされてたのが不満。
あれじゃ昭子さんと敏子さんは映画では【本妻】と【愛人】の関係のまま終わってしまったようで…。


その他にも小説で非常に魅力的だったパート(特に後半)が
映画版では敏子さん個人の描写にこだわるがあまり
どれもこれもカットされちゃってるんです。


例えば…
蕎麦打ちの会の今井さん(映画では左右田一平。ちょっと地味すぎ)が
あんな真面目な人なのに結婚詐欺にあってしまうところとか。
敏子さんの友人・栄子さん(映画では今陽子。懐かしい!)が
あんなに活発なのに実は【ボケ】てるのではと友人たちに言われるところとか。
敏子さんには直接関係ないけれど現在【その年齢層】の人たちが直面してる
様々な問題が、小説では彼女の周りの人間たちを通じて描かれているのです。
なにもバッサリカットまでは至らなくても、小説での作者からの重要なメッセージでもあったのですから
「サラリと」ぐらいは触れて欲しかったですね。
だからえらく後半の展開が駆け足になってしまった印象も受けました。


それなのにトヨエツ扮する野田のシーンは
小説以上のボリュームがあって(小説ではもっと地味な人なのに…)
この辺のアンバランスさも気になりました。
やっぱトヨエツをキャスティングしてしまった以上、出演させないといけないのかなぁ(笑)。


あと敏子さんの最後の決断が【映写技師】っていうのも、
これは映画のオリジナルなのですが、なんか現実離れしちゃってて
小説が持っていた【リアルさ】が、映画では【ファンタジー】にすりかわってしまってて、
やっぱり小説を読んでから映画を見ると、実に【微妙】でありますよ。


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