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「武士の一分」

武士の一分

うまいなぁ!


1/21 ユナイテッドシネマとしまえん にて


監督・脚本:山田洋次
原作:藤沢周平
脚本:平松恵美子、山本一郎
出演:木村拓哉、檀れい、笹野高史、綾田俊樹、桃井かおり、緒形拳、
    赤塚真人、大地康雄、小林稔侍、坂東三津五郎、他


 下級武士の三村新之丞(木村拓哉)は、妻の加世(檀れい)とともに幸せに暮らしていた。
 しかし、藩主の毒見役を務め、新之丞が失明してしまったことから人生の歯車が狂い始める。
 妻は夫の職を守るために幼い頃から知っていた番頭の島田(坂東三津五郎)に相談するが、
 島田の横恋慕により加世は関係を持ってしまう。
 やがて加世と島田の関係に新之丞は気付き、絶望のなか離縁を決意。
 愛する妻を奪われた悲しみと怒りを胸に、新之丞は島田に“武士の一分”を賭けた果し合いを挑む。


とにかくいろいろな面で「うまいなぁ」と思いました。


「たそがれ清兵衛」「隠し剣、鬼の爪」 藤沢周平原作の映画化にて秀作を放ち、
その質の高さは保証済みの山田洋次監督
そして満を持しての三部作の最後としてこの作品を発表。
主役に起用したのがなんと飛ぶ鳥を落とす勢いの木村拓哉
山田洋次に木村拓哉。
まずはこの意外なコラボレーションによる【話題作り】に「うまいなぁ」と思いました。
しかも人気俳優・木村拓哉を起用しておきながらも俳優の人気、キャラには一切頼らずに
演出の要所要所で【山田節】を効かせて作品全体の印象では
しっかり【山田洋次作品】にまとめあげている…
キムタクに負けない山田監督の、そのアピール度も「うまいなぁ」(笑)。


作品自体も極めてオーソドックスな展開で、
時代劇として安定したストーリー運びながらも
観客が見ながら「次にこういう展開になるだろう」という予測を
時に裏切ることで「意外」と思わせておきながら、
それでいてしっかり予測通りの展開もさせることで、
山田監督は観客のツボを見事におさえる。
とにかく【ハズす】ことないその緩急自在な演出に
見る者は画面にグイグイ引きこまれる。


木村拓哉以外にも新人の檀れいを始め、
坂東三津五郎など山田洋次作品初登場のキャストの起用により
意外なコラボレーションを味わいさせながらも、
山田作品を数本見たならば思わずニヤリとさせられる
桃井かおり(懐かしいなァ「幸福の黄色いハンカチ」(注1)!)や
緒形拳(「隠し剣、鬼の爪」では悪役)、
笹野高史(もう「男はつらいよ」からの常連!)らがしっかり脇を固め、
幅広いキャスティングがより一層この作品を見応えあるものにしていて
改めて映画はキャスティングも重要を思わされる。


時に笑わせ、時にハラハラし、最後にはしっかりホロリとさせられ
もう山田マジックにはまりっぱなしの2時間。
見ながらもう「うまいなぁ」と終始うなりっぱなし。
これぞ映画のお手本のような出来ばえ。
心地良く山田マジックに酔わさせていただきました。


蛇足ですが、ラストの壇れいと復縁する一連のシーンを見ながら
私は「遥かなる山の呼び声」(注2)のラストシーン
高倉健と倍賞千恵子の列車のシーンを思い出してしまいました。
山田洋次はどうもああいう展開がお好きなようで(笑)。
あの作品でのハナ肇の役回りは、この作品では笹野高史ってとこなんでしょうね。

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「ダーウィンの悪夢」


ダーウィンの悪夢

1/20 シネマライズ にて


この映画を見た数日後、いつもお昼に行く洋食屋で
好物の「白身魚のフライ定食」を食べようとしたが、
思わず躊躇して頼まず、他の物を頼んでしまった…


監督:フーベルト・ザウパー
(ドキュメンタリー)


「ダーウィンの悪夢」は、
アフリカのヴィクトリア湖畔に生息する巨大魚【ナイルバーチ】を通じて
貧困・戦争・エイズなどアフリカが抱える様々な問題をあぶりだす
社会派ドキュメンタリーであります。


 【ナイルバーチ】は半世紀前に外部より放流された肉食魚。
 この肉食魚は、ヴィクトリア湖畔に長く生息していた数々の熱帯魚を喰い散らかし絶滅させ、
 湖畔の生態系をも変えようとしている、まさに諸悪の根源。
 しかしその身は淡白なため食肉用としてヨーロッパや日本では大人気。
 アフリカの輸出食品として、自国の経済をも潤わしている。
 よって【ナイルバーチ】は生態系の破壊を食い止めようと、捕獲して絶滅させるどころか
 アフリカの国々が国を挙げて生産を盛り上げているという皮肉な現状。


 だが【ナイルバーチ】およびその産業は、
 都市部の一部の人たちの経済を潤わしているだけで
 地方のその産業に従事できない人々は湖畔にたむろし、ホームレス同然の生活をし、
 難民のごとく群がるヴィクトリア湖畔の人々は貧困を悪化させ、
 貧困からおこる無差別な性行為はエイズを蔓延させ、
 そして【輸出品】として人気の白身魚は【輸入品】として厄介な物を国に持ち込む始末となり…。


この作品のキャッチコピーが「悪夢のグローバリゼーション」
まさに言いえて妙であります。
1匹のグロテスクな巨大魚が、まさにアフリカが抱える全ての問題の源となっているとは…
見ていて衝撃を受けっぱなしの作品でありました。


確かにこの作品で告発される内容は衝撃的だし
こういうことを映像の力で告発するという作者たちの勇気も大いに評価したい。

しかし1本のドキュメンタリー作品として「ダーウィンの悪夢」を評価するとなると
ちょっと首をかしげたくなる。
それは問題を告発する場面が全て自分たちで撮影したものではなく
「他の映像」「新聞の記事」の引用ばかりであるからだ。


例えば【ナイルバーチ】がヴィクトリア湖の生態系を無茶苦茶にしているところでも
自分たちが調べた調査結果ではなく、何かの会議でアメリカあたりが制作したビデオの引用だし
(しかもアフリカの自国の人たちに「こういうネガティブなことよりも明るい部分を考えよう!」
と一蹴されてしまってるし)
その後の会議の内容も、自国の経済優先のかなりいい加減なものであったろうに
映像ではついに登場しない。


【ナイルバーチ】を輸出する飛行機がヨーロッパから来る時は、
空(から)であるはずが、実はアフリカ各国の内戦用の【武器】を密輸しているのでは
というところも、結局のところは地元紙のスクープ記事の引用でしかない。
(現地のジャーナリストを出演させているが、その人が声高に問題を告発しようとすると
製作者たちは「この辺でやめとこう」と撮影を止めてしまってるし)


しかも武器の密輸についての取材は、
何も知らなさそうなロシア人のパイロットや現地の市民にばかり聞いていて
決して権力に対して堂々と取材をしているわけではない。
それに何かと取材対象者に【無理やり】言わそうとしている演出もやたらと目に付く。


たぶん製作者たちは【ナイルバーチ】とそれを取り巻く人々を通じ
アフリカの貧困を映像に納めようぐらいの規模から
この作品をスタートさせたのではないか。
しかし撮影が進んでいくうちに問題はより深刻なものとなり
あれよあれよという間に国家的な犯罪にまで取材が及んでしまった。
武器密輸に関する【及び腰】の取材姿勢には、こんなうがった見方をしたくなるほど
製作者たちの突込みが弱いのが残念でならない。


まさにこの製作者たちこそ撮影を進めていくうちに
「悪夢のグローバリゼーション」
はまってしまったのではないだろうか?


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「リトル・ミス・サンシャイン」


リトル・ミス・サンシャイン

1/20 シネクイント にて


愛すべき【変人】たち!


監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス
脚本:マイケル・アーント
出演:グレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーヴ・カレル、アラン・アーキン、ポール・ダノ、
    アビゲイル・ブレスリン、他


 独自の成功論に取りつかれる父リチャード(グレッグ・キニア)と母シェリル(トニ・コレット)夫妻の家族は
 一風変わったひとたちばかり。
 今日も自殺を図ったゲイのシェリルの兄フランク(スティーヴ・カレル)が家族の一員として仲間入り。
 そんな一家の小太りの眼鏡っ子、長女オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)が
 美少女コンテストの地方予選で繰り上げ優勝。
 彼女の夢は全米の美少女コンテストで優勝すること。
 彼女の夢をかなえてやれとばかりに、バラバラな一家は
 総出でおんぼろバスに乗り込み決勝大会の会場を目指すのだが…。


最初は全然見る気はなかった。
アメリカのコメディって、自分のツボにうまくはまってくれないと
これほどシラケてしまうジャンルもなくて
一昨年私はウェス・アンダーソンの「ライフ・アクアティック」 (注1)で見事にハズしてしまってから
このジャンルを見るのがすっかり怖くなってしまっていました


しかしこの作品、公開後の評判もやたらいいし、
会社の女の子がこの作品を今週末見に行く事をえらく楽しみに私に言うもんだから
ついつい私もつられて(その子と一緒に見に行くわけじゃないのに!)
もしかしたらツボにはまるか、と思い見に行ったわけです。


噂にたがわずいい映画でした。
この映画に出てくる登場人物(家族)たちは皆一風変わったいわば【変人】ですよね。
【変人】ばかりの家族だからみんな勝手放題のバラバラ、もう家庭崩壊寸前状態。
そんな中で唯一の純真無垢な長女が子供のミスコン「リトル・ミス・サンシャイン」の
全国大会の出場がヒョンなことから決定して、
バラバラな家族がとりあえず会場となるカリフォルニアまでおんぼろバスで向かう…


【変人】といえばやっぱり思い出すのが、前述の「ライフ・アクアティック」
あれもとにかく一風変わった【変人】ばっかり出ていましたっけ。
でもあの作品が【ドッチラケ】で、この作品が【大乗り気】で見られた大きな違いは、
その【変人】たちを演出がいかにゴク普通に描いているかどうかの点。

「ライフ・アクアティック」は【変な登場人物】たちを
【演出】が輪をかけて【変に描いて】いるものだから
意図的に「笑わせよう」という魂胆がミエミエで、見る側はかえってシラけきってしまった。

しかしこの作品の演出にはなんら格好つけたものがない。
「変なものは変」と言わんばかりの素朴な演出なのであります。
この素朴さが逆に【嫌味】がないし、意図的に「笑わせよう!」という力みもない。
かえって【愛情】を持って登場人物たちを描いているから見ているうちに
登場人物たちの【変さ】がえらく【愛しい】存在になってくる。
そしてその【愛しい】登場人物たちに、見る側は知らぬ間に【肩入れ】してしまっていて
後半のミスコンのシーンでは大笑いしながらも
「がんばれ!」と知らぬ間に応援してしまってるわけです。
まさに素朴な演出ならではの感動、まさに演出の勝利でありますよね。


そうそう、この映画を見ているうちに登場人物たちが【変人】に見えなくなってくるのは、
後半の「リトル・ミス・サンシャイン」に出てくる、
作り笑顔いっぱいに会場を歩き回る他のミスコンの子供たちの方が 、
登場人物たちよりよっぽど【グロテスク】に見えたことでも証明されていたのではないでしょうか。
なんでもそれなりの子供たち(ミスコン出演実績者)を出演させたそうですが、
本当あの作り笑顔のグロテスクは【変人】以外の何者でもありませんよ!


■注1:これです。

    ライフ・アクアティック/ビル・マーレイ
    

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    関連記事:「ライフ・アクアティック」(2005.9.14)

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「新春浅草歌舞伎」

新春浅草歌舞伎

1/14 浅草公会堂にて


1/7の歌舞伎座1/8の国立劇場 に続いて
今月は「江戸三座見物」とばかりに洒落こんでみました。
浅草公会堂での「新春浅草歌舞伎」


当日の演目と配役は下記の通りです。


第2部(午後3時開演)


 お年玉〈年始ご挨拶〉中村亀 鶴


 一、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
   渡海屋・大物浦
  
   渡海屋銀平実は新中納言知盛  中村獅 童
        女房お柳実は典侍の局  中村七之助
                  源義経  中村勘太郎
                 相模五郎  中村亀 鶴
                 入江丹蔵  片岡愛之助
               武蔵坊弁慶  市川男女蔵


 二、新古演劇十種の内 身替座禅(みがわりざぜん)

                山蔭右京  中村勘太郎
                太郎冠者  中村亀 鶴
               奥方玉の井  片岡愛之助


この「新春浅草歌舞伎」は、もう歴史も古く
毎年正月の浅草の風物詩ともなっております。
開始当初は勘三郎(当時勘九郎)、三津五郎(当時八十助)らの花形が中心に
盛り上げてきたこの興行も今や獅童、勘太郎、七之助
すっかり代替わりしたようです。
しかしその人気ぶりは相変わらず。
当日も正月気分の抜けきらない浅草の街の人波に負けないほど
よく人が入っていて、公会堂は満員御礼の盛況でありました。


私はこの「新春浅草歌舞伎」は今回初鑑賞
何かと話題の中村獅童(笑)の歌舞伎を、一度見ておこうと思い今回鑑賞した次第。


ホント中村獅童っていう役者は、TVや映画でしか見てない方は信じられないでしょうが、
本業である歌舞伎界からは冷遇されていて
いまやハリウッド映画にも出演するほどの大物俳優になったにもかかわらず、
歌舞伎の世界では名門【萬屋】一門ではありますが、
幹部連中の中では下の方の存在。
本家・歌舞伎座では数えるほどしか出演していないし
出演したとしても本当に端役。
私は彼の【台詞】を歌舞伎座ではほとんど聞いた事がないくらい!
父親の先代獅童の廃業、また中村時蔵を筆頭とする大所帯の萬屋一門ということもあり
なかなか目立たない存在でありましたね。

ところが歌舞伎座を離れれば昨今のTV・映画出演での大当たりで
今や立派な座長級の人気役者に変身。
新橋演舞場での座長公演はレギュラー化しているし
三越歌舞伎や新春浅草歌舞伎でも座頭格。
舞台以外でも映画の方では「硫黄島からの手紙」を含め
いまや活躍はハリウッド級、ってそんな言葉ありませんけど(笑)。

とにかく獅童という俳優ほど歌舞伎座の【中】と【外】で
扱いの変わる役者さんもちょっといないんじゃないでしょうかね。


と、いうわけで中村獅童についての解説が長くなってしまいました。
本題に戻りまして当日の演目について。
私の見た第2部は
一幕目が中村獅童の知盛、中村七之助の典侍の局による
「義経千本桜」渡海屋と大物浦。
二幕目が中村勘太郎、中村亀鶴、片岡愛之助による
舞踊「身替座禅」のラインナップ。
そうそうこの愛之助の人気っていうのも最近スゴイんですってね。
この辺も書いていきたいけれど、また横道に逸れそうなので今回は割愛。


「渡海屋」と「大物浦」は某新聞を読んだら獅童の知盛を
「よく役を研究してる」とえらく誉めてましたけど
私はそれほどは感じませんでした。
何か豪快さが足りないんですよね、普通って感じなのです。
知盛の正体を現す前の渡海屋銀平とのメリハリもそれほどなく
さりとて知盛になってからも今ひとつ豪快さもなく…
若い獅童に過剰なまでの豪快さを期待しすぎたのかもしれませんけど
ここは歌舞伎座じゃない浅草の若手歌舞伎なんだから
もっと斬新な演出をしてでも、いっそのこと実験的なことをしてでも
もっと弾けた獅童ならではの【新鮮な知盛像】が見たかったですね。


今まで私は播磨屋の知盛を2回見てるのですが、
古典に忠実な播磨屋でさえ、あの豪快な知盛 (特には入水の場でのあの形相!)
の姿は 今でも瞼の裏に焼き付いていますよ。
…播磨屋と獅童を比較しちゃ失礼ですけど(笑)。
だから獅童だったらもっと豪快な、もう化物に近いくらいの、ホラー映画並の
恐ろしいまでの知盛にしてしまってもよかったのではないでしょうか。


で、逆に舞踊と言う事であまり期待しないで見た
二幕目の「身替座禅」の方が私には楽しかった。
中村勘太郎は父・勘三郎に巻けじ劣らずの舞踊巧者ですよね。
再認識させられました。
あの身のこなしは現代劇に出演した時にも感じましたけど、素敵でした。
だから物語自体も面白かったのですが、私は勘太郎の身のこなしの方を
興味津々にみておりました。
父・勘三郎は歌舞伎座で「鏡獅子」を熱演し
子・勘太郎は浅草で「身替座禅」で華麗に踊る…
舞踊なんて私にとっては今までは息抜きの幕であったのに
新年早々、中村屋親子によって【目から鱗】状態であります。

まさに中村屋親子、舞踊で大当たり!って感じですね。

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初春歌舞伎公演「通し狂言 梅初春五十三驛」


国立劇場1月

1/8 国立劇場大劇場にて


1/7の歌舞伎座「壽初春大歌舞伎」 に引き続き連チャンで見に行ったのが
三宅坂の国立劇場、初春歌舞伎公演
「通し狂言 梅初春五十三驛」


尾上菊五郎丈率いる【菊五郎劇団】が
昨年の「曽我梅菊念力弦(そがきょうだいおもいのはりゆみ)」
に引き続き2年連続の復活狂言による
正月公演での登板であります。


国立劇場開場40周年記念


三升屋二三治・中村重助・五世鶴屋南北ほか=作
国立劇場文芸課=補綴


 通し狂言 梅初春五十三驛(うめのはるごじゅうさんつぎ)
                         五幕十三場
                  国立劇場美術係=美術


  序幕 【京都】   大内紫宸殿の場
      【大津】   三井寺の場
  二幕目【池鯉鮒】  街道立場茶屋の場
       【岡崎】   八ツ橋村無量寺の場
  三幕目【白須賀】  吉祥院本堂の場
              同 奥座敷の場
       【新居】   関所の場
  四幕目【由比】   入早山の場
       【吉原】   富士ヶ根屋の場
  大 詰【大磯】   三浦屋寮の場
      【品川】   鈴ヶ森の場
              御殿山の場
      【江戸】   日本橋の場


  出演者:尾上菊五郎、中村時蔵、尾上松緑、尾上菊之助、坂東三津五郎、
       坂東彦三郎、澤村田之助、他


「梅初春五十三驛」は国立劇場お得意の【復活狂言】であり、
その復活ぶりは、なんでも150年ぶりの上演!
そんな古いの見るに耐えられるのかなぁの心配はご無用、
そこはサービス精神旺盛な菊五郎劇団のこと。
「復活なんだから思いっきり面白く復活させてやれ!」
とばかりに、あれやこれや「面白いこと」ならなんでも詰め込んだような
「歌舞伎おもちゃ箱」のような内容で楽しめます。


もうその内容たるやバラエティに富んでおり
岡崎の場では菊五郎丈演じる化猫によるケレン味たっぷりの立ち回りが展開すれば、
菊之助丈は白井権八に扮し、品川の場では有名な「鈴が森」のパロディは飛び出すは、
劇中劇の茶番は展開するわ
仕舞いにはパラパラまで登場するわ(笑)で、
「えーっ!国立劇場、ここまでやっていいの?」って感じです。


確かに「何でもあり!」の舞台でありました。
サービス精神にあふれたその展開は、
ストーリー的にはありふれた【お家騒動】や【刀剣の奪い合い】であり
ご都合主義辻褄合わせがところどころ、
いや、そこらじゅうにあることはあるのですが、
でも菊五郎劇団の役者陣が奮闘するこの舞台を見ているうちに
「昔の歌舞伎っていうのはこんな感じだったんだろうなぁ」と思えてきます。

そして菊五郎劇団が復活させようとしているのは
その戯曲だけでなく、その戯曲が上演されていたころの歌舞伎の世界、
つまり【江戸時代の歌舞伎】が持っていた雰囲気さえも
この公演で【復活】させようとしたのではないでしょうか。


今やすっかりセレブなおばさまがたの社交場と化した
【高級芸能】歌舞伎でありますけど、
江戸時代はもちろん庶民の【大衆芸能】
歌舞伎は、まずはお客さんを楽しますのが第一の目的でしたでしょうし、
役者連中は庶民のヒーローやアイドルみたいな存在だったわけです。
そんな庶民の娯楽に【様式美】や【物語】、【理屈】なんてのは不要
江戸時代の人たちは一日中芝居小屋に立て篭もって、
好きな役者連中を見て楽しみ、活躍する彼らの姿に熱狂して
そして大満足で帰っていったわけです。
だから江戸時代の歌舞伎こそ「何でもあり!」の世界であったろうし、
歌舞伎の舞台で展開される内容こそ、その時代の【流行】であり、
それが浮世絵に波及したり、風俗に波及したりで、
最終的には、その時代の【文化】を形成していったわけであります。


そう考えると当時の歌舞伎はその時々のニュースを伝える場でもあったわけで
その最たる例として、巷で噂の【ついこの間起こった事件】を早速舞台化した
「仮名手本忠臣蔵」であり近松の一連の心中物などが当時大ヒットし、
今日では有名演目として立派に残っているわけですね。

何か代が変わってくると徐々に【高級化】してしまった
歌舞伎という芸能ではありますが
あの江戸時代に庶民が熱狂してみた「芝居小屋」の雰囲気を
菊五郎劇団はこの舞台で復活させたかったのではないか
そんなことをこの舞台を見ながらぼんやりと思ってしまいました。


ということは、あの上演時間の長さも江戸時代流なのか(笑)
そしてこれこそ国立劇場の【復活狂言】の意図なのか…
さすがに【おもちゃ箱】の楽しさはあるといえども
休憩入れて上演時間5時間は、まぁ長い長い!
菊五郎劇団の奮闘を充分楽しみつつも
見終わった後はグッタリ。
これも国立劇場の【復活狂言】の名物とはいえども…。


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